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本学術変革領域の概要

本学術変革領域の概要 図1 固体内をイオンが高速移動する電池材料や原子・分子・イオンの反応を制御する触媒材料では、近年、イオン間またはイオンと周囲との相互作用に注目し、材料特性の向上を図る研究が活発化しています。これらの材料では、結晶格子や原子・分子の集合体(クラスター)が素早く柔らかく変化することで、イオンの流れを促進し、機能を強化する描像が得られつつあります。しかし、このイオンの集団運動(イオン流)とそれを誘起する様々な相互作用を的確に捉え、理解・制御するための学理は未だ構築できていません。

従来のイオン流に関する理論は、「イオンが各々独立して動くことができる」という仮定に基づくものでした。これは、イオン密度が希薄であるときのみ成立するため、実材料における高密度なイオンの流れを説明することはできません。イオン密度が高まると、イオン同士の相互作用が無視できなくなります。本領域では、それを実現するための学問として渋滞学に着目しました。渋滞学は、「クルマや人の集団運動や流れを扱う科学」、つまり、輸送や物流を研究する数理科学の一分野です。本領域で掲げる「イオン渋滞学」は、クルマや人々を粒子に置き換え、その粒子間の相互作用を取り入れた非平衡統計力学に立脚しています。粒子間とその周囲との相互作用を取り入れた、より動的なプロセスを記述し、イオンの流れを広い視点から制御する方法を、計算・数理(A01)、材料創製(A02)、先端計測(A03)とが協働で開拓し、従来の材料・化学研究の抜本的な変革を目指します。

領域代表挨拶

挑戦あるのみ!

一杉 太郎 今、私は新たな挑戦を前に、途方に暮れています。 どのようにして皆の力を一つに結集し、数理科学と材料科学の融合を進めるべきでしょうか? 新たな学術を創成するため、私はリーダーシップをどのように発揮すれば良いのでしょうか? 領域代表としての重責を果たせるでしょうか?まるで霧の中を歩いているような不安を感じています。

しかし、私はこれまで何度も挑戦をしてきました。 その度に天を仰ぎ、途方に暮れてきました。 失敗を恐れず、「自分の能力を越えている」と思うことに挑戦し続けなければ、道は拓けません。 失敗しても、そこから学べば良いだけです。

東北大学に務めていた時、「数理科学×材料科学」の交差点に出会いました。 初めてその言葉を聞いた時の困惑を今でも鮮明に覚えています。 しかし今、数理科学と材料科学の融合から生まれる将来像がはっきりと見えています。 ただ、いまだ全貌は見えません。その道を皆さんと一緒に切り拓きたいと考えています。 私自身、それらを融合させるべく、努力を重ねてきました。 その経験をこれから存分に活かしたいと思います。

本領域を運営する上で、最も大切にすべきことは「研究を楽しむ」ことです。 新しい発見を、無垢な気持ちで楽しむ。異分野との交流を、好奇心のままに楽しむ。それが何よりも重要です。

幸い本領域には、意欲に満ち溢れた元気なメンバーが揃っています。 その仲間の存在が、私にとって大きな支えとなっています。

さあ、皆さん、一緒に挑戦しましょう!自分自身に制約を設けず、広い視野を持って「自由闊達」に研究を進めていきましょう。 この姿勢が、学生さんや若手研究者に刺激を与え、学術変革と材料開発につながると信じています。

 

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2024年4月1日 一杉 太郎
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