研究内容
A01 イオン渋滞学の理論構築
A01ではイオン渋滞を制御するための物理・数理とは何かを明らかにするべく、クルマや人の渋滞現象を記述する「非平衡・数理モデル」と、イオン流を記述する「固体物理・量子化学」を融合させ、イオン渋滞学の理論的学理の構築を目指す。そしてA02, A03の連携を通じて、イオン渋滞理論を精緻化する。
【研究項目】
(a) 確率過程モデルを用いたイオン流に対する非平衡・渋滞モデルの構築
(b) 粒子シミュレーションデータ解析を通じた材料中での渋滞相と支配因子の抽出
(c) 粒界・複合材料系に対する材料機能の全体最適指針の構築
A02イオン渋滞の支配因子を制御する材料合成
イオン、電子、またはそれらの両方の集団的なダイナミクスによって高機能が発現するイオン伝導体、イオン・電子混合伝導体、固体触媒、水素貯蔵材料を合成する。A01、A03との協働によりイオン渋滞の支配因子を明らかにし、その因子を能動的に制御することで新たな高性能電池材料、触媒材料、水素貯蔵材料などを創出する。
【研究項目】
(a) 精緻な物性値と構造情報を獲得するためのモデル材料合成
(b) イオン流を能動的に制御した電池、固体触媒、水素貯蔵材料の創製と新合成法の開拓
(c) バルク、表面・界面などの階層構造を制御した複合材料の開発。
A03 イオン渋滞現象の解明に向けた高度計測技術の統合利用
A03では、A02より提供される良質なモデル材料、触媒および蓄電池材料を対象に、イオン流を念頭においた包括的なオペランド計測を実施することで、イオン渋滞現象を正確に把握する。さらにA01と連携し、数理に基づいて観測結果を解釈することで「イオン渋滞学」を確立する。
(a) イオン流を計測するためのオペランド計測技術の確立
(b) 包括的なオペランド計測適用によるイオン集団運動の解明
(c) マルチモーダルオペランド計測を支える計測・データ解析基盤の構築
融合研究の方針
本領域では、材料科学と数理科学の研究者が協働することで、固体中でイオンが集団的に運動する現象を解明し、イオン流を自在に制御した新材料を創製するための学問「イオン渋滞学」を構築する。その足がかりとして、A01、A01、A03の共通課題として3つの融合プロジェクト「集団の流れ」、「経路ネットワーク」、「全体最適」を設けた。本融合プロジェクト実施に向け、領域内の共同研究を促進するために、(i)イオン伝導体、(ii)混合伝導体、(iii)固体触媒、(iv)複合材料に関するワーキンググループを組織し、領域メンバーが1つ以上のワーキンググループに所属する体制をとる。ワーキンググループ内では、各材料(A02)で顕在化した非自明な現象が理論(A01)と計測(A03)の研究者に共有され、研究対象とする材料系と現象理解のための計算手法と計測手法についての議論がなされる。同様に、A01から考案された理論モデルを検証するための実験(A02, A03)や、先端計測(A03)を検討すべき材料系(A02)と得られた結果を解釈するための理論(A01)に関する議論も想定される。
融合研究の具体例: 空間スケール、時間スケールの異なるイオン伝導現象を正確に捉え、新たな理論を構築する。
【① イオン集団の流れ(ミクロ-メソ領域)】結晶格子スケールでのイオンの集団運動を単結晶材料やモデル材料で実験的に検証し、数理モデルにフィードバックする。それにより、理論をブラッシュアップする。
【② 経路ネットワーク(メソ-マクロ領域)】より広い空間スケールについて、分子動力学法や動的モンテカルロ法を利用して集団運動を詳細に解析する。実験では、高度な合成技術を用いて新材料を合成し、イオン流制御を行う。そして、先端計測技術によりイオン渋滞現象を定量的に解明する。
【③ 全体最適(ミクロ-メソ-マクロ領域)】マクロスケールでの物性発現を目指し、粒界・界面設計や複合材料(結晶材料と非結晶材料の混合体等)の最適化を通じ、ミクロ-メソ-マクロをつなぐ。