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名古屋工業大学 化学電池材料研究室 谷端直人助教にインタビューいたしました
暗記できないから、
なぜを問い続ける
谷端 直人 (名古屋工業大学)
文/堀部 直人 2026年取材
暗記が苦手だった少年は、「なぜ」を問い続けることで科学の面白さに目覚めます。その探究心はやがて、全固体電池という最先端の研究分野へと導かれていきます。次世代電池の材料開発に取り組みながら学術変革領域研究「イオン渋滞学」に参画する、名古屋工業大学で助教を務める谷端直人さんの、自分の好きなことにまっすぐ進んできたキャリアの軌跡を紹介します。
「音エネルギーの無駄遣いやな」
高校1年生のとき、授業中に外からバイクの爆音が聞こえてきたことがありました。すると、担任の理科の先生がボソッと「音エネルギーの無駄遣いやな」とつぶやきました。
「それを聞いて、科学って身の回りをそんなふうに見るんだ。なるほど。面白いなって思ったのです。」と谷端さんは振り返ります。またその先生は、趣味で星を見ていて、自分で発見した星に「うめぼし」という名前をつけたこともあると吹聴していたといいます。
こういった一言一言が、谷端さんを「なぜなぜ星人」へと変えていったようです。高校2年生になると、放課後「職員室旅行」に出かけるようになりました。色々な先生を捕まえては質問し、自分のなぜに対してすごくしっくりくる説明に納得したり、「確かにそこどういうことやろな」と先生と一緒に考えたりする、まさに知的な小旅行でした。教科も科目も関係なく、なぜなぜを続ける日々を送りました。
「暗記力がなさすぎたので、覚えたくないから『これどういうことだろう』って聞きに行っていたのです」と谷端さんは笑います。「もっと記憶力があれば良かったのですが、暗記しちゃうと『なぜ』って考えなくなるので、記憶力がなくてよかったのかもしれません」
周期表を理解すれば9割9分わかる
とりわけなぜなぜ星人の探究心を満たしてくれる科目は、化学でした。「物理は原理があって、ボトムアップでやっていく感じで、頭がついていかなかった」といいます。一方、「化学はイメージできる。現象を因数分解して、身の回りのことを全部説明していける。そこに強く惹かれました。」
そのようなこともあり、大学は工学部化学科に進みました。有機化学は分子の名前を覚えるのが大変で、反応もこの場合はこうなるとある程度暗記が求められる側面があり、「暗記できない身からすると、つらかったです。でも、無機化学は違いました。周期表を理解すれば、無機化学は9割9分理解できるっていうイメージなんです。キャラクターがわかりやすく並んでくれている表を理解すれば、ボトムアップで全体をイメージしていける。そこにすごく魅力を感じました」と言います。
研究室配属で選んだのは電池の研究室。高校時代に環境部という部活で、サイエンスコミュニケーターと一緒に啓蒙活動をしていた谷端さんは、エネルギー問題にアンテナが立っていました。「自分の好きな化学と、身の回りを良くすることがリンクするところだったので、電池はとても魅力的でした。」
さらには、「研究室に入ってから知ったのですが、その研究室は全固体電池の分野で世界的に有名なところでした。辰巳砂昌弘先生、林晃敏先生という、黎明期から携わってきたパイオニアのもとで研究することになったのです。本当にラッキーでした」と運命的な部分もあったようです。
材料を発見し、電池を組む
4年生で研究室に配属されると、さっそく材料開発に取り組みました。新しい材料組成でペレットを作り、イオン伝導度を測定する。作れるか作れないかの勝負があり、作れたらイオン伝導度を測って、高い値が出たらハッピー。「王道な感じの経験をさせてもらいました」と谷端さんは振り返ります。
研究室では、無機化学に基づいて「こういう組成であれば性能が上がるのではないか」と仮説を立て、実際に合成して検証するというアプローチをとっていました。谷端さんが作った材料は、予想どおり高いイオン伝導度を示しました。
修士課程では、4年生のときに発見した材料を実際に全固体電池に組み込む研究へと進みます。材料を発見するのが学部、それを電池として検証するのが修士。電池研究の基本を一通り経験することができました。
「いろんなことを器用にできるタイプではないので、これと決めたことをずっとやっているという感じでした」と谷端さんは言います。一つのテーマを深く掘り下げていく姿勢は、このときから一貫しています。
チャンピオンデータに挑んだ博士3年間
博士課程に進む直前、奇妙なデータが報告されました。全固体電池では、電極の中に固体電解質を混ぜてイオンの通り道を作るのが常識でした。ところが、ある企業の研究者が、リチウムイオンを含まない材料を混ぜて、驚くほど高い性能を出したというのです。
「意味がわからない。でもチャンピオンデータが出ている。これを明らかにしよう」。そう決意した谷端さんは、博士課程の3年間をこの謎の解明に捧げました。
対象はアモルファス(非晶質)で、構造解析がとても難しい材料でした。「でも、3年間かけてやるにはちょうどいい!」と腹をくくり、構造を調べ、なぜこういう特性が出るのかをイメージしながら考え続けました。
最終的に谷端さんが提唱したのは、充放電中に原子レベルでイオン伝導パスが自己形成されているというメカニズムでした。普通は固体電解質を混ぜないとイオンが通れないのですが、この材料では化学反応によって必要なパスが自動的にできていく。従来型ではない現象でした。
「今までの延長線上ではないような研究ができたかなと思います」
計算の第一人者のもとへ
博士号を取得した谷端さんは、名古屋工業大学の中山将伸研究室に移りました。中山先生は計算科学の第一人者です。実験をベースにしてきた谷端さんにとって、異なる世界への挑戦でした。
「計算のスキルを本格的に身につけたいというよりは、実験に軸足を置き、計算の知識や考え方を取り入れるような研究をしています」と谷端さんは説明します。「餅は餅屋というか、計算のプロの世界があるので、自分は自分のできることをやって、計算の観点を取り入れて面白いことができる人になれたらなと思っています。」
無機化学に基づいて合理的に考え、狙いすまして成果をあげるアプローチ、「なぜ」を起点にした材料探索と言ってよいのかもしれません。
そして現在、普段は電池という応用部分に携わっていますが、博士課程で取り組んだメカニズムのような根本原理への興味もあり、学術変革領域研究「イオン渋滞学」の公募研究に参画しています。電池や触媒の中でのイオンの流れを、交通渋滞になぞらえて理解しようという野心的なプロジェクトが、なぜなぜ星人の心をくすぐったのです。「イオニクスという分野にずっと携わってきて、根本的なところにアプローチするというのはすごく興味がありました。全国からすごい先生方が集まっているので、みんな頭いいなって思いながら、食らいついている感じです(笑)」
学生へのメッセージ:「なぜ」を問い、深め続ける
キャリアを振り返りながら、谷端さんは「ラッキーだった」と繰り返します。大学選びも研究室配属も、就職も、「なぜ」に突き動かされて自分のやりたいことにまっすぐ進んできただけであって、これから研究者を目指す方の参考にならなくて申し訳ないとこぼすほどでした。しかし、谷端さんの”ラッキー”は、まっすぐ進んできたがためにミスマッチがなかった証なのではないでしょうか。
「なぜ」を深められる過程が博士課程だと谷端さんは言います。
「今はAIがすごくて、ChatGPTを使えばいろんなことができる時代になってきています。でもAIは、今ある一次情報を二次情報にすることはできても、一次情報を作ることはできない。やっぱり『なぜ』を問うことが大事で、それは人間にしかできないことだと思うんです」
「博士課程って、コスパ、タイパを見ると魅力的に映りづらいところがあるかもしれません。でも自分のやりたいことにまっすぐ進めた方が、後で見たときに満足な人生だったなって思えると思います」
と、AI時代に「なぜ」を深められる環境としての博士課程の魅力を楽しそうに語ってくれました。
暗記が苦手だった高校生は、「なぜ」を問い、深め続けることで、誰も解けなかった謎を解き明かし、次世代電池の未来を拓く研究者になりました。その原点は今も変わりません。
TANIBATA Naoto
谷端 直人
和歌山県立桐蔭高等学校卒業。2012年大阪府立大学工学部応用化学科卒業。2017年同大学院工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。2017年より京都大学触媒・電池元素戦略ユニット拠点助教を兼任。2017年より名古屋工業大学助教として着任、現在に至る。2024年電気化学会電池技術委員会賞受賞。学術変革領域研究「イオン渋滞学」公募研究代表者。
研究室HP: https://www.nitech.ac.jp/mse/nakayama/